会長挨拶

大保木 輝雄 (埼玉大学)

Teruo Oboki

 今年は5月29日から31日の3日間、第16回世界剣道選手権大会(16WKC)が日本武道館で開催されます。56カ国・地域の参加者を迎え、史上最大の大会となります。1970年に日本武道館で開催された第1回大会の参加団体は17カ国・地域の参加団体でしたから、この45年の間に着実に増え続け実に3倍強。剣道は国際的な広がりをもった文化となりつつあるのです。
 過日、大会当初から携わってこられたイギリスのホルト氏、フランスのアモー氏の相次ぐ訃報が届きました。一時代の終焉を感じたのは筆者だけでしょうか。両氏の薫陶を受け、現在指導的立場にある外国人剣道家は、技能の上達や指導法に加え、剣道の歴史、古流、日本刀など剣道にまつわる認識に対する関心が高くなっていることは、皆さまもご承知のここと思います。
 また、国内的には、平成24年度から実施された中学校武道必修化から3年を過ぎ、競技の背後にある剣道の文化性についての読み解きの必要性が高まりつつあります。
 このような今日的状況にあって、剣道を「やさしく、ふかく、おもしろく」実践できる指導法や、「我国の固有性」や「特性」などを具体的に絵解きするための基礎資料などの提供が本会の社会的責務になってくると思います。このことはまた、外国剣士の関心に応えることにも直結することになるでしょう。
 指導現場や社会からの要請に、どう応えるのか。いよいよ、私たち剣道研究に携わる者の力量が問われる時期が到来したのです。
 奇しくも今年は戦後70年。戦後剣道は、逆風の時代を経験し今日の順風の時代を迎えました。
 現在の剣道は、戦後、スポーツ宣言をし、有効打突「一本」を競う「競技」として復活しました。しかし、戦前の剣道を体験されてきた先輩達は、試合(ゲーム)で勝つことを主たる目的として育てられた戦後剣士の「ものの見方、考え方」に危機感を覚え、1975年(昭和50)に「剣道の理念」や「剣道修錬の心構え」を制定。それから32年後の2007年(平成19)に「剣道指導の心構え」によって三つの指標が策定されました。それは「剣道の理念」に示された「剣の理法」をより身近に捉えるための作業だったと言えましょう。
 全日本剣道連盟の「剣道指導要綱」『剣道講習会資料』の指導目的には、わが国の伝統と文化に培われた剣道を正しく伝承してその発展を図り、「剣道の理念」に基づき高い水準の剣道を目指す、とあります。また、剣道講習会資料「日本剣道形」作成の大綱には、日本剣道形の修錬を通じて、剣道の原点である剣の理法を学び、剣道の正しい普及発展に役立てることを目的とした、と示されています。さらに『剣道試合・審判規則』(本規則の目的)第1条では、この規則は、全日本剣道連盟の剣道試合につき、剣の理法を全うしつつ、公明正大に試合をし、適正公平に審判することを目的とする、と明記されています。平成元年(1989)の文科省学習指導要領の「格技」から「武道」への名称変更以後、全日本剣道連盟は、「剣道理念」の具体的普及施策に向かって進行しています。
「剣の理法」をどう読み解くか、これが喫緊の課題なのではないでしょうか。

(剣道専門分科会会報「ESPRIT2104」より)


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