■暑熱環境下の水分摂取はパフォーマンスの向上にもつながる■
図1は水分を取りながら運動した場合と,取らずに運動した場合を比較した実験です.グラフは心拍数の変化を示しているのですが,水分を取らないと運動時の心拍数が著しく高くなることがわかります.これは,体内の血液の量が少なくなった(血液の水分が汗として失われ,血液が濃くなった状態)ために,筋肉に酸素や栄養を送り届ける能力が低下してしまい,心臓が多く動くことでそれを補っている状態を表しています.当然,体のすみずみに酸素や栄養が行き渡らなければ運動能力は低下しますし,脳の判断力も低下してしまいます.つまり,水分を取らずに練習を行うと,水分をとって練習する場合よりも運動の成果があがらないことになります.熱中症を予防するという目的だけでなく,水分摂取をすることは,パフォーマンスを維持し効率良く運動するためにも大変有効なのです.
■どんな注意をすれば良いのか 〜環境に注意〜
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暑熱環境下で運動する場合はどのような注意をすれば良いのでしょうか.図2は熱中症予防のための運動指針です.道場に湿球計を備えた温度計を準備してみて下さい.日本の夏は,ほとんどが注意〜厳重警戒の温湿度となります.図にはありませんが,15分毎に250ccの水分摂取するように指示する指導書もあります.この指針に照らし合わせると,これまでに相当に危険な環境で稽古を行っていたことが理解できると思います.加えて,この運動指針は剣道のような稽古着と防具を着用することは想定していません.剣道の場合は,この指針以上の注意が必要なのではないでしょうか.
■どんな水分をとればよいのか 〜水分,塩分,水温〜
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熱中症の予防のためには水分摂取が有効です.しかし単純に水だけを摂取しても多少なりの効果はあげることはできますが,それが逆に熱中症の原因となってしまうこともあります.例えば,暑熱環境下の稽古中に“ふくらはぎがつった”場合は熱中症のひとつの「熱けいれん」を疑いますが,その時は体内のナトリウムの濃度は低くなっている可能性があります.ナトリウム濃度が低くなってしまったのは,汗でナトリウムを外に出してしまっているのに対して,水しか補給していなかったことが原因です.つまり,水のみの摂取が熱けいれんを引き起こしてしまうのです.水は飲まないよりは飲んだほうがよいのですが,熱中症の予防のためには塩分濃度が0.1〜0.2%(水100mlに対して塩1〜2g)程度が適しています.スポーツドリンクは,至適濃度のナトリウムなどが含まれていますのでそちらを勧めますが,準備できないようであれば,塩をひとつまみ口に含みながら水を飲むことで補うことはできます.
また,温度も熱中症の予防としては重要です.本によって異なる場合もありますが,5〜15℃程度の水分が腸への移動と吸収が速やかとされています.また,冷たい水分は体内から体温を下げる働きも多少ありますから,暑熱環境下での稽古時には,ある程度冷たい水分を補給することをお勧めします.
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